上原ひろみロス

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昨年6月のブルーノート東京での公演を最後に活動休止中の上原ひろみ。今春からヨーロッパツアーの予定がありましたが、ツアーの皮切りとなるスイスのホールの予定を見たら10月に延期になっており、ツアー自体が秋に延期になったようでした。

BLUE GIANT NIGHTS@ブルーノート東京
先日、コミック「BLUE GIANT」の公式イベント「BLUE GIANT NIGHTS」を見にブルーノート東京へ行ってきました。上原ひろみと熊谷和徳のデュオ目当てでしたが、一番の目玉はオーディションを勝ち抜いた高校生トリオの演奏です。

体の中の上原ひろみ成分が切れる

上原ひろみは例年ですと常に世界のどこかの国で活動していましたから、日本で直接見ることが出来なくてもYoutubeなどに映像が上がっていて、現在の姿を見ることが出来ました。そしてここ数作はニューアルバムの曲を中心としたライブを行い、機が熟したところでレコーディングをして発表、そしてアルバムツアー開始と言う流れです。その流れで行くと2017年を最後に新しいアルバムをリリースしていませんから、今年は新しいアルバムに収録予定の曲を聴くことが出来るのではないかと期待していました。

上原ひろみは今年40歳です。ちょうど30歳の時に”Place to be”というソロアルバムを発表したのですが、その時にインタビューで「30歳、40歳といった節目の年にソロアルバムを出したい」と言っていたので当然今年はソロアルバムを発表すると期待していました。ですから当然昨年後半には新しい曲を引っ提げてワールドツアーを行うと思っていましたから、活動自体が無かったことで私の体の中の上原ひろみ成分が切れてしまい禁断症状が出始めました。

“MOVE” LIVE IN JAPAN 完全版

"MOVE" LIVE IN TOKYO完全盤 スリーブ

“MOVE” LIVE IN TOKYO完全盤 スリーブ

そんな上原ひろみロスを解消し禁断症状を抑えるために過去のDVDを見ているのですが、今一番はまっているのが”MOVE” LIVE IN JAPAN 完全版というDVDです。これは2013年に行われた2012年9月にリリースされた”MOVE”というアルバムのジャパンツアーの東京国際フォーラムでのライブ映像です。

"MOVE" LIVE IN TOKYO完全盤 ケース

“MOVE” LIVE IN TOKYO完全盤 ケース

上原ひろみは”Hiromi The Trio Project featuring Anthony Jackson,Simon Phillips”というトリオ名義での活動が中心となっているのですが、このMOVEというアルバムはこのトリオでの2作目になります。このトリオで今までに4枚のアルバムをリリースしているのですが、2016年のツアー中にアンソニージャクソンとサイモンフィリップスが病に倒れ、サイモンフィリップスは復帰できたのですが、アンソニージャクソンはいまだ復帰できていません。その年のジャパンツアーはベースにアドリアン・フェローという新進気鋭のベーシストを代役に立てて乗り切りました。

4作ある中でこの”MOVE” LIVE IN TOKYOは私にとっては壮大なプログレのアルバムというイメージなのです。上原ひろみはジャズのみならずさまざまなジャンルの音楽を聴いてきており、当然プログレッシブロックも聴いていますし、キングクリムゾンに影響を受けたと本人も語っている通り、彼女の音楽にはプログレの要素が感じられます。プログレ大好きな私がハマらないわけがありません。

この”MOVE” LIVE IN TOKYOというDVDは実は2種類あり、今現在販売されている”MOVE” LIVE IN TOKYOと、オフィシャルサイト限定の完全受注生産で販売された”MOVE” LIVE IN TOKYO 完全版というものです。この2つの違いは完全版が東京国際フォーラムで演奏された曲をその曲順で再現されているのに対し、通常版はMOVEに収録されている曲だけをアルバム収録順に編集したものです。

とにかくこのDVDを見ると音楽の原点である自由さ、楽しさというものを感じます。難しい顔して演奏するのではなく、本人たちがまず楽しそうに演奏していると言う事です。その楽しさは見ている方にも伝わりますし、当然演奏にも現れます。そして3人がアイコンタクトしながら即興演奏をし「これならどーだ」と言わんばかりにお互いが煽っているのも感じられます。上原ひろみに関しては「ジャズじゃない」などと言われますが、そんな狭い音楽の定義など馬鹿らしく思えてしまう音楽、演奏なのです。

ラストを飾る11:49PM

このMOVEというアルバムは「時の流れとともに動いていく感情の流れ」をテーマにしており、アルバムのラストの曲、そしてこのDVDのラストの曲が東京公演のアンコール曲「11:49PM」という曲です。アルバムではMOVEという曲で目を覚まし一日が始まり、この「11:49PM」は11分の曲で演奏が終わると12:00になり一日が終わる、という設定になっています。もちろんライブですから実際の演奏時間は13分ほどになっています。

11:49PMは上原ひろみの荘厳な低音のテーマから始まるのですが、その時点でプログレ感が満載でこれから壮大な物語が始まることを感じさせてくれます。上原ひろみの3分を超えるソロ、サイモンフィリップスも負けじと高速ツーバス連打のソロ、そして最後はまた上原ひろみがソロを弾き倒します。演奏しながら歌ったり、まるで悪魔に取りつかれたかのような唸り声をあげたり、それは狂気さえ感じさせます。そして最後にはふと我に返ったかのように表情が柔らかくなり安どの表情に変わります。「一音入魂」「全だし(持てる全てを出し切る)」をモットーとしている上原ひろみらしさが感じられる演奏です。しかし3人が作り出す大きなグルーブ感に巻き込まれると、見ているこちらも映像なのに鳥肌が立ってしまいます。

今更上原ひろみの演奏のすばらしさは言うまでもありませんが、一番驚かされるのはこんな壮大な曲が書けると言う事です。上原ひろみ本人が「音楽はジャンルで聞くものではなく、好きか嫌いかの二つしかない」と言う通り、小さいころから幅広い音楽を聴いてきた彼女だからこそこんな曲が書けるのだと思いますし、アンソニージャクソンとサイモンフィリップスというレジェンドだからこそ音で厚みを加えさらに壮大な音楽になるのだと思います。

ついにオフィシャルでも10月からのワールドソロツアーも発表になりました。NHK4Kのテーマ曲や新・美の巨人のテーマ曲になっていることから「今年はソロだろう」と思っていたのでどんな曲を聴かせてくれるのか今から楽しみで仕方ありません。オフィシャルには11月中旬以降のスケジュールは出ていませんが、例年11月中旬から12月いっぱいはジャパンツアーを行う事が多いので、今年はジャパンツアーがあるのではないかと期待しています。

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